大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)1408号 判決 1954年7月09日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人菊地養之輔、同美村貞夫の上告理由について。

原判決の確定するところによれば、本件建物は被上告人が昭和二年五月頃貸家として建てた三戸建二階家中の中央と東端の部分であつて、三等材を使用して建てられたバラック式建物であるところ、昭和二十年九月隣家からの火災にあいその西端部分は相当ひどく類焼したもので現在空家の侭放置されてあること、本件上告人賃借部分も一部延焼したので現に上告人も数回応急的処置を施しようやく使用に堪えている状態にあること、本件係争部分を含む全体の建物は西方に向つて相当傾斜しており突発の暴風又は強度の地震等の場合は倒壊の虞れが多分にあること、本件建物は八戸市の中央繁華街に位置しいわゆる目抜きの場所であるのみならず、附近に八戸市営バスの停留所もあつて交通頻繁であるから、斯かる場所に倒壊の危険がある建物を放置しておくことは治安上からも許されないこと、本件建物の敷地は街路より約一尺五寸乃至二尺低く土台の上端は下水道上端より五寸程低位にあるため下水が横溢すれば溢水する虞れがあり、その為常に湿気を呼び易く衛生上の見地からも地盛をする必要がある、というのである。

本件建物が右のごとき、状況にあるとする以上、所有者たる被上告人において、右建物を解体するの必要上、賃借人に対し右建物の賃借関係の廃罷を要求することは、借家法一条の二にいわゆる賃貸借の解約の申入を為すに正当の事由ある場合に該当するものといわざるを得ないのである。(なお原判決は、被上告人は昭和二一年中から度々上告人に対し本件建物もひどくなつたからこれを取毀してその跡を被上告人企画の建物建築の敷地としたい旨を話し、上告人も昭和二四年当初までは格別異存のあるような態度を示さなかつた事実を認定しているのであつて、原判決も所論のように上告人側の事情を全然考慮に入れなかつたという非難には値しないのである。)論旨は採用することができない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、全裁判官一致の意見により、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例